【イベントレポート】製造業向け AI×IoT活用事例セミナー -産業分野における人工知能技術の国内ケース-(2019年11月19日開催)

会場:Knowledge Place(ナレッジプラス)
開催日時:2019年11月19 日(火) 16:00~17:40
登壇者:株式会社スカイディスク 八坂 裕一郎 氏

製造業でAIを活用するには?導入から運用までのノウハウを公開

2019年11月19日、Knowledge Place(ナレッジプラス)で「製造業向け AI×IoT活用事例セミナー −産業分野における人工知能技術の国内ケース–」が開催されました。登壇されたのは、株式会社スカイディスクでビジネス開発部長兼マーケティング部長を務める、八坂裕一郎氏。同社の事例をもとに、製造業でAIを取り入れるにあたり、導入時の検討ポイントから運用にいたるまで、その活用のノウハウを語っていただきました。

AIは製造業に何をもたらすのか

八坂氏は冒頭、製造業にAIを導入する有用性について説明。労働力が低下する中、製造の質の向上を実現する手段として、AIが効果的だと話されました。人材の高齢化にも触れ、「形式知化されていない『匠の技術』をAIに学習させることが重要なポイント」とした上で、熟練の職人が経験と勘で行う細かな判断やスキルを、AIに再現させることが重要なコンセプトだとおっしゃいました。

八坂氏によると、AIには2点の特徴があります。

1つ目は、予測することに長けているということ。
2つ目は、学習をすることができるということ。

その上で、「AIは、新たなことを覚えさせて、自動で予測や判断を行わせる、という2つのフェーズに分けることができます」と話されました。
また、「AIを通じて何を達成したいのか」という明確なゴールを定めることが重要なポイントだとも。
「人間が行っていた正否の判断や、歩留まり率などの数値化などがその例として挙げられます。AIの得意分野を見極めて導入することが大切です」

次に八坂氏は、成功するAIプロジェクトの取り組み方について、解説されました。

まず1つ目は、製造業者が自社のみでAIプロジェクトを進める「自前主義」にならないこと。
「今、AI技術は日進月歩の速度で進んでいます。自社内のみで情報を集めるだけでは、そのスピード感で技術革新の多様化に追いつきません。だからこそ、我々のようなAIの販売会社と協力するのが良策なんです」
2つ目は、AIプロジェクトを小規模からスタートしていくこと。
「AIプロジェクトは、生産量が多く、その分潰れてしまう量も多い。多産多死なのです。まずは小さな規模でスタートし、結果を見る。それを繰り返していくことが大事です」

AIを導入するために、何を考えれば?4つの検討ポイント

AIを導入する前の検討ポイントについても、八坂氏は詳しく語られました。

ポイント① コストだけでなく、戦略的な視点で検討を進めること
「導入時に、費用対効果の議論が出てくるかと思いますが、もっと長期的な視点で検討する方がコストは安く済みます」。またキャリア30年のベテランにしか分からない傷、その日の気候による最適な調整、設備の操作といった「匠の技術」については、キャリアの浅い社員に身につけさせるのに多大なコストがかかると指摘。「戦略的に考えると、それらの技術をAIに学習させて資産とすることで、品質向上の向上も見込めます」と話されました。

ポイント② AIの適応箇所と、導入後のバリューを見極めること
「とにかくAI導入につながるデータを片端から貯めていこう、という考えは危険です。以前お客様に、どんなデータがあるか聞くと、『なんでもあります』と答えられたことがありますが、これでは効率が悪い。的確に、最短距離でゴールに進めません」
八坂氏はデータの集め方として、導入の目的をもとに、課題を形にし、それに沿って探すのが適切と説明。「どんな業務フローに導入すれば、もっとも効果が出るか、仮説を立てることで、導入後のバリューを見極められる」ということでした。

ポイント③ AI導入に過度な期待をしないこと
「よくいらっしゃるのが、『AIの精度が高くないと導入できない』というお客様。AIプロジェクトは探索を伴うため、最初から実運用できるレベルの開発は行いません。検証用のモデルを作り、効果を確認して、当たれば追加でAIに学習させる、という手順なんです」
また、AIに人間と同じ要求をするケースも「現実離れしている」とも。
「AIにできることを理解しながら、新入社員を現場で育成するような意識を持つと良いと思います」とのアドバイスがありました。

ポイント④ 人との共存を意識した業務設計を目指すこと
製造業では、人間がデータに基づいて予測を立て人間が意思決定をするという業務プロセスが一般的ですが、予測立てをAIに任せることで、意思決定の速度が上がるのだそうです。「AIの判断精度が95%、人間の判断精度が93%だとすれば、各々を補い合って判断精度99%を目指せます。あくまでもAIは人間の意思決定の補助、と捉えるべきです」

AIデータ選定には、こだわりを持つべき

八坂氏によると、まずは目的に沿ってデータを選定、次にモデルを作成し、検証するという一連の流れを繰り返す中で、AIの精度が高まり、実用的になっていくそうです。また、「インプットデータ」と「アウトプットデータ」がセットとして紐づいているものが、AIのデータとして適しているとも。これによって、より質の高いAIの学習モデルを作成することができると話されました。
「インプットデータは、例えば製造プロセスにおける温度、振動、圧力、といったデータのこと。アウトプットデータは、品質での結果、つまり良否判定や測定値を指します。これらは人によって判断基準がバラバラ。人間に依存したままだと、製品のブランド力は落ちてしまいます」

最後に八坂氏は、スカイディスクが特に得意とする「異音に関する検査」に関するAIプロジェクトを紹介されました。

自動車製造の工程では、エンジン音の大小やドアの閉まり音といった音の検査が必要です。しかし、工場では様々な音が飛び交う上、検査員の年齢や性別によって可聴域も違うため、検査結果に差異が発生するというデメリットがありました。
そこでスカイディスクが行ったのは、音分析データを用いて1000以上の音の特徴を洗い出し、もっとも正常音への影響が高い20音のAI化。その結果、これまで5人で行っていた検査が、1人で実施できるようになったといいます。

続けて、射出成形機の不良品要因分析と不良検知に関する事例も紹介いただきました。成型の色むらや欠けなどの要因を明らかにし、短いスパンで不良を検知する技術を取り入れたいというニーズを叶えるため、まずは射出時の特定のデータを収集し、品質不良に影響する重要な変数を提示。そして予測モデルを作成し、そこに「匠の技術」を取り入れることで精度を上げ、さらに不良の検知も可能にしたといいます。

他にも化学分野や発電分野など多くの活用事例が提示されましたが、いずれも未来の製造業界でのAIの存在感に希望を抱かせるものでした。

最後に

本セミナーを通して、八坂氏によってAIの導入から事例まで、その活用のノウハウが詳細に語られました。特に製造分野では、扱い方次第ではさらなる発展を見込むことができそうです。

八坂氏の口からも語られた、日本の強みとなる「匠の技術」。これをAIに落とし込み、またその用い方を戦略的に検討していくことで、製造業界に新たな風が吹くかもしれません。