【イベントレポート】日本でも市場が急拡大するD2Cビジネスのトレンドと事例(2019年12月12日開催)

会場:Knowledge Place(ナレッジプラス)
開催日時:2019年12月12 日(木) 19:00~21:00
登壇者:
BASE株式会社取締役COO 山村兼司 氏
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 岸裕一郎 氏

インターネット時代、製品を通じて顧客との関係性は「D2C」で築く

2019年12月12日、Knowledge Placeで、セミナーイベント「日本でも市場が急拡大するD2Cビジネスのトレンドと事例」が開催されました。登壇者は、株式会社ポーラ・オルビスホールディングスの総合企画室コーポレートベンチャーキャピタル担当の岸裕一郎さん、BASE株式会社取締役COOの山村兼司さんです。製造を行っているメーカーやブランドが、自社のECサイトを開き、直接消費者とやりとりを行う「D2C」ビジネス。事業者と顧客の新たな関係構築の方法として注目されていました。今回のイベントでは、D2Cビジネスとつながりをもつ2人が、ビジネスの活用法や、押さえておくべきポイント、成功事例について語りました。

CVCからみた、D2Cビジネスの投資の決定ポイント

最初に登壇したのは、株式会社ポーラ・オルビスホールディングスの岸さん。岸さんは、社内でCVC運営を担当していて、これまでにはD2C事業へも投資を行っています。

岸さんは、投資を決定する際の判断ポイントを大きく4つ紹介しました。

まず1つ目は、主に製品の定性的な要点。例えば創業の背景であれば、「参入障壁が低い今の時代の中で、モノへのこだわりや理由は事業への熱量に関係してくるため、重要視する」と話しました。製品の開発の場合は、「今は若手起業家もD2Cに参入することが増えているが、想像以上に開発が難航し挫折が多い分野でもあります。だからこそ形になるまでの苦難やどんなPDCAがあったのかは、ヒアリングするようにしています」。

一方で、特に重要視していないのは、「機能性で差別化されているかどうか」。そもそも差別性を図ることが難しいことを前提に、「競合が現れた場合、どうするか」と戦略立てることが大切だと話しました。

2つ目は、マーケット。具体的には、参入する初期の市場規模や、事業が拡大した場合の市場規模です。そういった事業戦略の想定がクリアであれば、投資につながると話しました。

参入する業界の構造や競争環境は、D2Cを始める上で分析する必要があるとも。「D2Cは、もともと顕在化されている市場を攻めるケースが多いです。そこからマーケットのシェアを取るための分析が必要です」。

3つ目は、顧客1人あたりの採算性が取れているのか、またコアなファンは存在するのか、といった点。前者に関しては、その製品が顧客の生涯にもたらす価値や、ユーザー1人あたりの獲得費用などを基準に分析を行っていると岸さん。また後者に関しては、ユーザーの年間購入額の最大値やリピート回数、またSNS上でのユーザーによる評価などを基準にしていると話しました。

4つ目はコスト構造。特に粗利率に関しては、「初期に徹底的に考え込み、改善しておくことが大切」と強調しました。D2Cはマネタイズの方法もシンプルであり、一般的なインターネットサービスとは将来的な損益の構造も異なると話し、「長期的なコスト構造の戦略を初期から描けているかどうかで成長が変わるため、その点も重視している」と話しました。

リスクなくネットショップを開設できる「BASE」

次に登壇したのは、BASE株式会社の山村さん。同社は、製品作りに携わる人や法人を対象に、ネットショップ作成サービス「BASE」を提供しています。サービスに登録すると、自らのドメインを設定し、ショップを開いて商品を販売できます。

山村さんはまず、「BASE」の特徴を4点あげました。

1つ目は、初期費用や月額費用を要さないため、ユーザーはリスクなくショップをオープンできること。

2つ目は、決済方法が簡易であること。「通常、オンラインショップを開設すると決済に関する手続きなど手間があるが、『BASE』に登録すると即日で6つの決済方法を利用できます」。

3つ目は、多様な拡張機能を利用できること。具体例として、運輸会社と連携をとっているため送料が一律料金になることや、倉庫業者を利用して製品の在庫管理が可能になることを挙げました。「『BASE』のサービス自体はシンプルだが、機能をカスタマイズできることもまたメリットです」。

4つ目は、ショップページを開く際に豊富なテンプレートが用意されていること。「自分らしさやブランド性などを表現したい方にはぴったり」と話します。「一から制作すると100万単位の費用が必要になったりしますが、『BASE』はテンプレートを選ぶだけでいいんです」。

また同社は、さまざまな角度からショップの支援を行っていると言及。

1つは、オンラインだけでなく、オフラインの場の提供です。「販売者の購入者に会ってみたい、生の声を聞きたい」という要望がきっかけとなり、同社のスペースを用いることで、期間限定のリアル店舗として出店することもあるといいます。

もう1つは、ショップを開設しているユーザーが、資金調達サービスを利用できること。同社が蓄積しているショップのデータをもとに、これからの売り上げの予測や金額に基づき、同社のグループ会社から資金を提供しています。「貸与ではないため、利用料の支払いは商品の売上があった時に生じます。売上が無い時は支払う必要が無いんです。だからリスクはありません」。 

最後に、同社を利用したユーザーによる事例の1つとして、作業着を販売していたショップを紹介しました。機能性を重視した製品作りと、そのコンセプトをオンライン上で発信し続けながら「BASE」で販売。その上で「実際に製造している人の声が聞きたい」とユーザーの声を受けてリアルの場を利用したことで、新たなファンを増やすことができたと言います。

D2Cを成功させるには、コアなファンを作ること

続いて、参加者による質疑に答える形で、登壇者の2人によるトークセッションが行われました。

「D2Cビジネスがトレンドとなった背景は?」という質問に対して、岸さんは「消費者のニーズが多様化したから。メーカー業界では、他製品と一線を置くような商品を作ることは難しいので、いかに小さく尖った商品で、長くお客様とお付き合いできるかが鍵になります。また、テクノロジーの進化でD2Cだと、BASEさんのようなサービスや決済サービスの増加等も大きいと思います」。

山村さんも、「人々の消費基準が変わってきているから」と回答。「みんなが選ぶブランドよりも『自分のお気に入りのもの』を選ぶ時代です。その中で受け入れられてきた手法がD2Cです」。

また、岸さんが「ただオンラインで商品やブランドを売るだけでなく、様々な要素が絡み合っている点が、D2Cビジネスの難しいところ」と話したことを受け、SNSの活用法についても話題に上がりました。山村さんは、「SNSを上手に活用して成功しているショップは、ただ商品の宣伝だけのツールとして利用していません。ショップを開設する前から、商品に関連する投稿を自由に行っています。そこでファンを作り、開設後にスムーズに売上を伸ばしています」と成功パターンを話しました。

またSNS活用以外に、ショップ開設後の初期段階で大切なことは、「1人でもいいから、熱量の高いファンを作ること」と山村さん。「100人や1000人に買ってもらうよりも、1人2人にリピートしてもらい、深いコミュニケーションを築くことが重要なポイントです」。

岸さんも、「創業者の思いやブランドヒストリーが、いかに消費者に刺さるかが重要」と話しました。


情報通信手段が驚くべき速さで発達する中で、顧客との関係性を築く新たなツールとなるD2Cビジネス。オンライン販売を軸とし様々な応用と工夫を行うことで、製品の新たなブランドづくりを行うことができるかもしれません。